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「た、たいたにっく?」
「そうだよ。ほら、行ってこいって」
そう言いながら健が僕の背中をグイグイと押す。健は意外に力が強く、帰宅部の僕は抵抗はしていてもドンドン足を前に出されてしまう。
「ちょ、ちょっと待てって!なんでそんなことしなきゃ……」
「いやー良いよなータイタニック。すげーロマンチックだ。あんなことされた日にゃ女の子はドキドキもんだなー」
棒読みで一気に喋り、健は僕に反撃の隙を与えない。できるわけないだろ、そんなことをこんな場所で。
ドンドン押し出される僕。
ドンドン押し出す健。
のんきに海をのぞき込んでいる坂村さん。
普段は味わえない。
けど、立派な日常の1つ。
初めて知ることができた。
友達との旅ってのは、こんなに楽しくて、有意義な物だったのか。
きっと家族とも同じくらい楽しいんだろう。
こんな思い出が作れたのだろうか。
もし、母さんが生きてたら………
「………ん?」
背中を押されながら、僕は坂村さんの足元に変なものを見つけた。
甲板の床はどこも鈍い銀色なのに、何故かそこだけ、青色だった。
健を振り払い、坂村さんの足元に落ちているそれを拾い上げる。なんだなんだ、と健が覗き込む。どうしたの?と坂村さんも覗き込む。
青色というよりは水色――空色に近い。
僕が拾い上げたそれは、一枚のハンカチだった。
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