第3話:重いドアの先

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「うらららららららら!」 健がこれでもかと吠える。 「ふぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」 坂村さんがまだまだこれからと唸る。 互いの拳が互いの体にクリーンヒット、両者を一歩仰け反らせる。 先にアクションを起こしたのは健の方だった。ワンステップフィールドの奥に踏み込んでダッシュ、一気に連撃。それを坂村さんは慣れた捌きでかわし、相手の隙を伺う。そして、 があぁぁん!! 見事に坂村さんの払いから吹っ飛ばしコンボが決まった。モロにそれ喰らった健は5mほど後ろへ飛んだが、受け身ガードですぐさま体勢を整えた。 白熱戦はそれからも続いた。拳をガードし、蹴りをかわし、一撃必殺のタイミングを待つ。 健と坂村さんは、すでにもう僕の知っているクラスメートではなかった。2人は、立派な戦士なのだ。 もっとも、これは平面上の画面にCGで精巧に描かれた2人の分身みたいなもので、本物の2人は椅子に座り、左手のスティックと右手のボタンを目にも留まらぬ速さで連打しているだけなのだが。 『1P、WIN!!』 機械的なアナウンスの声がそう叫ぶ。 それは、第1ラウンドは1プレイヤー側、つまり健が勝利を収めた事を意味していた。 「よっしゃああぁ!!」 立ち上がりガッツポーズを決める健。額から頬にかけて垂れた一筋の汗がなんとも爽やかである。 「うぅ……負けちゃった………」 肩をガックリと落とす坂村さん。心なしか、目に涙が浮かんでいるような。 僕から言わせて見れば、何もゲーセンの格闘ゲームでこれほど暑くならなくても良いと思うのだが。    
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