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2人の目が戦士の目になったのはたぶん、船のゲームコーナーに入ったあたりからだったと思う。
ゲームコーナーの奥、背中合わせに設置されていた対戦用の格闘ゲームに健ががっついたのだ。
「おっ!なつかしー!!中学の頃よくやったなー」
などと感動に浸っていた健を、僕は「このゲームオタク」とバカにするつもりだったのだが、
「あ、ホントだ。私もよくやってたよー」
と、坂村さんが健と同意見を述べたのだ。
こうなるともう「このゲームオタク」なんてバカにはできない。仕方がないので、僕はそのまま2人の会話を聞くことにした。
まぁ、もともと健と坂村さんの仲を深めるための旅行なんだ。僕はそのゲームはやったことがないんだから、こういう時は黙っているに限るのだ。
「へぇ、真奈美ちゃんもゲーセンとか行ってたんだ。」
「うん。その中でも、これは特によくやってたなぁ」
「俺も俺も。ゲームランキングでいつも2位止まりでさ。結局1位になれなかったなぁ」
なかなか良い雰囲気の会話だった。話の内容が対戦格闘ゲームというのがなんだかおかしいが、話が弾んで仲が深まるのも良いだろう。
その時の僕は、のんきにそんなことを考えていた。
「………健君って、もしかして『Mr.K2』だった?」
坂村さんのその一言で2人の周りの空気が変わった。
冷めたわけじゃない。逆だ。さっきまでの和気あいあいとした暖かい空気が一変、熱くなったのだ。
2人の周りを、何か目に見えないオーラみたいなものが包んでる感じだ。
「……もしかして、『S.マナミ』?」
指差して放った健の言葉に、坂村さんはこくんと首を一振り、肯定の仕草。
「『Mr.K2』?」
坂村さんの言葉に、健は「うん」と、肯定の言葉。
それ以上の会話は必要なかった。
僕が気づいた頃には2人はゲーム越しに向かい合わせで椅子に腰掛けており、
チャリンッ
同時に100円玉を投入していた。
「1st.round..ready...GO!!」のかけ声と共に高速、いや、光速の域に達していた2人の指。
それをみながら僕はただただ思っていた。
健、『Mr.K2』はダセぇよ。
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