第3話:重いドアの先

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2人の目が戦士の目になったのはたぶん、船のゲームコーナーに入ったあたりからだったと思う。 ゲームコーナーの奥、背中合わせに設置されていた対戦用の格闘ゲームに健ががっついたのだ。 「おっ!なつかしー!!中学の頃よくやったなー」 などと感動に浸っていた健を、僕は「このゲームオタク」とバカにするつもりだったのだが、 「あ、ホントだ。私もよくやってたよー」 と、坂村さんが健と同意見を述べたのだ。 こうなるともう「このゲームオタク」なんてバカにはできない。仕方がないので、僕はそのまま2人の会話を聞くことにした。 まぁ、もともと健と坂村さんの仲を深めるための旅行なんだ。僕はそのゲームはやったことがないんだから、こういう時は黙っているに限るのだ。 「へぇ、真奈美ちゃんもゲーセンとか行ってたんだ。」 「うん。その中でも、これは特によくやってたなぁ」 「俺も俺も。ゲームランキングでいつも2位止まりでさ。結局1位になれなかったなぁ」 なかなか良い雰囲気の会話だった。話の内容が対戦格闘ゲームというのがなんだかおかしいが、話が弾んで仲が深まるのも良いだろう。 その時の僕は、のんきにそんなことを考えていた。 「………健君って、もしかして『Mr.K2』だった?」 坂村さんのその一言で2人の周りの空気が変わった。 冷めたわけじゃない。逆だ。さっきまでの和気あいあいとした暖かい空気が一変、熱くなったのだ。 2人の周りを、何か目に見えないオーラみたいなものが包んでる感じだ。 「……もしかして、『S.マナミ』?」 指差して放った健の言葉に、坂村さんはこくんと首を一振り、肯定の仕草。 「『Mr.K2』?」 坂村さんの言葉に、健は「うん」と、肯定の言葉。 それ以上の会話は必要なかった。 僕が気づいた頃には2人はゲーム越しに向かい合わせで椅子に腰掛けており、 チャリンッ 同時に100円玉を投入していた。 「1st.round..ready...GO!!」のかけ声と共に高速、いや、光速の域に達していた2人の指。 それをみながら僕はただただ思っていた。 健、『Mr.K2』はダセぇよ。    
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