第3話:重いドアの先

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『2P、WIN!』機械的なアナウンスが僕を回想から現実に引き戻す。見ると健が握り拳でガンガンとプレイデスクを叩いていた。一方の坂村さんは満面の笑み。 つまり、戦いの決着は次のファイナルラウンドに持ち込まれたようだ。 『final round ready...GO!!』 火蓋が切って落とされる。健が操るキャラクターが一気に距離を詰めようと走り出し、坂村さんの方は逆に一定の距離を保とうとバックステップ。ほぼ牽制状態だ。 先程までの戦いを見て分かったのだけど、どうやら健は小さい連撃コンボで徐々に削っていく攻撃タイプ。 対する坂村さんは敵が隙を見せるまで待ち、一撃の大ダメージで一発逆転を狙う持久タイプのようだ。対戦ゲームに疎い僕でもこの凄まじい戦いを見ればそれくらいは分かる。 いつの間にか僕以外のギャラリーも増えており、春先だというのに客船のゲームコーナーはなかなかの盛り上がりを見せていた。 健の連続的なパンチングコンボ坂村さんはなんとかいなそうとするが、いかんせん距離が近すぎる。すべての拳がクリーンヒットした。 (勝った!) たぶん健はそう思ったんだろう。油断していたのだ。坂村さんの十八番(推定)であるぶっ飛ばし攻撃、それが一瞬の隙をついて健に直撃したのだ。   健はおそらく坂村さんにとっての理想だろう距離まで吹っ飛ばされた。 すかさず健は体制を整えるものの、坂村さんもすでに万全の構えだ。両者とも残りの体力ゲージはあと1撃でダウンするぐらいギリギリ。 勝負は次の一瞬で決まるだろう。液晶内の出来事と言えど、緊迫した空気であることには変わりはない。 (さすが真奈美ちゃん、やるなぁ!) 健の目が坂村さんにそう語りかけている。 (いやいやお代官様こそ) 坂村さんの目はそう語りかけていたが、やはりと言うか、変に考えがズレていた。 一触即発、2人の目の色がギラギラと輝いている。手応えのある相手に出会えて、体が無意識に震えているのだろう。ギャラリーの僕らも思わず息を飲む。 そして、 健と坂村さんの左手が、レバーを前に押し倒した。 液晶内のキャラクターが互いに走り出し、握り拳が互いの頬を、捉えた。    
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