第3話:重いドアの先

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ガタンと大きく船が揺れ、そのたびに吐き気が喉にせり上がってくる。 もう一度吐いてしまおう、とベッドから降りるが、立っただけなのに目の前がぐにゃりと歪み、ふらついてまたベッドに倒れてしまった。   もういい。今日はこのまま寝てしまおう。   そう思って目を閉じるのだけど、   「うっ!」   こみあがる吐き気は休む気なんてさらさらなく、寝ようとしているのに幾度となく妨害を働かせてくる。 坂村さんと健のフルCGの画面内での激闘をずっと目で追っていたのがそんなにいけなかっただろうか。 結局あの死闘はリーチの差が物を言い、坂村さんが見事チャンピオンの意地を貫いた形で終わった。 勝ったのは坂村さんだったが、あの状況ではどちらが勝利を収めるかは紙一重だったろう。闘いがおわり、健と坂村さんさんが戦友同士の握手をしたとき、周りのギャラリーは拍手喝采だった。   勿論僕だって拍手はした。ただそれは、戦友を称える握手ではなく、2人の男子と女子の距離が若干でも縮んだからである。     いや、ゲームでの目疲れはたぶん後押しだ。根本的に問題だったのはあの夕食だろう。   ゲームセンターでひとしきり遊んだ後、僕らは夕食をいただきに船後方の大食堂へ足を運んだ。 入り口を通って僕がまずしたこと。ありきたりといえばありきたりだろう。それは息を飲むことだった。 高級な肉、魚、野菜、麺類やスープが燦然と目の前に並んでいる。夕食は豪華なバイキングだったのだ。 美味しそうで、しかも食べ放題。こんなに良い思いなんてそうそうない。 僕と健は高級料理にそりゃあもうがっついた。肉はジューシー。魚は身が引き締まってたし、野菜も新鮮そのもの。 後の事なんて考えてなかった。 明日あたり不幸になってしまってもいいや、とも思った。       甘かった。     明日どころじゃなかった。不幸は、夕食のバイキングを食べ終えたその1時間後にやってきた。   要するに、「船酔い」である。    
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