第3話:重いドアの先

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まぁ、こうなることは予想くらいできていた。 乗用車や運行バスでも簡単に酔ってしまうんだ。いくら豪華客船と言ったって、まったくゆれないわけではない。酔いやしいヤツがバイキングでたらふく食べればそりゃ酔うさ。 帰りの船ではもうちょっと考えて食事をとろう、と決心しながら、頭を別の議題に切り替えた。 現在の時刻は7時半を回ったところ。僕は自分に割り振られた部屋で1人ベッドにくるまっている。 となると、健と坂村さんは、ほぼ受動的に2人で行動することになるのではないだろうか。 まだこんな時間だし、健全な高校生がサッサと眠りにつくとは考えにくい。それに、坂村さんは『そのつもり』でこの旅行に着ているんだ。何らかの行動は起こすだろう。 そう考えると、船酔いして良かった、と思えてくる。このまま酔いが引きずっていることを訴えて、観光の方も2人きりのフラグを立ててやっても良い。 元々イケメンと美少女だ。周りは勝手にカップルと思い込むだろう。 なかなか良い作戦ではないかと思いつつ、そうなると自分は1人で観光することになるのか。と、少々感傷的な気分になった。 そもそも、僕はよくこんな「2人を結ぶ愛のキューピット役」を買って出たものだなと今でも思う。 あの時は加奈崎さんにふられてヤケクソになっていたのかもしれないな。 もし健と坂村さんが結婚まで発展でもしたら、僕は仲人に抜擢されるのだろうか。 「それはなんか嫌だな……」 1人で呟いて、僕は更に体を丸くした。 その時、旅行前の僕と親父との会話がなぜか鮮明に頭の中にフラッシュバックされた。    
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