第3話:重いドアの先

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    「だあぁっっはっはっはっはっは!!!!」   財政ピンチのクセに買ってきた焼酎をがぶ飲みしてすっかり出来上がっていた親父は、僕の話の一部始終を聞くとボロい我が家中に響かんばかりの大声で笑い始めた。 普通に考えて息子の不幸を大笑いする親がいるだろうか?確かに僕もこれが他人ごとなら笑い飛ばすかもしれないが。   「なんだよ。僕のモノをどう使ったって僕の勝手だろ」   「はっはっはっ!バカヤロー。お前は結局損してんだぞ。プライスレスだけじゃ生きていけはしねぇんだよ」   酔った頭で実にムカつく事を口走りやがる。別にプライスレスで良いじゃないか。いかにも青春!って感じだし。   「……いや、まぁ。笑いすぎたな。息子の事言える立場じゃねぇし」   その日ウチのクソ親父は焼酎で完全に酔っ払っているからか、イヤに表情豊かで饒舌だった。   「どうゆう意味だよ、それ」   「なぁに。お前の不幸体質は俺の遺伝だからな。ちったぁ責任を感じてるのさ」   「意味わかんねぇ。」   「今は分かんなくて良いんだよ。俺もそうだった。お前の母親に会うまではな」   川越陽子。それが僕の母の名前だ。今はこの世にいない。10年前に交通事故で旦那と息子を残して死んでしまった。   「……母さんは死んだよ。結局父さんは不幸さ」   「…ふん、マセガキが。俺は陽子と結婚してから自分は不幸だとは1度も思ってねぇぞ。ほら、お前に話したろ。俺と陽子が……」   「覚えてるよ。不良から母さんを助けたんだろ?」   実際には助けただなんてとんでもなかった。母さんの話によると、父さんは高校時代暴走族まがいの事を仲間達とやっていて、ある日そいつらの標的になったのが母さんだった。母さんに一目惚れした父さんはその場で仲間達を裏切って多勢に無勢向こうの気が済むまでリンチの嵐。だけど父さんがかばったおかげで、母さんは無傷だったとか。   「お前の母さんを初めて見た時な、俺は心臓バクバクもんだったぜ。仲間裏切って、殴られて蹴られて罵倒されて。あぁ、俺は仲間も何も全部失ったんだと思ったら、その後陽子のヤツ、俺の手当てしに戻ってきて……」   その後クソ親父は、なんと小一時間も自分らのノロケ話に花を咲かせた。   正直、母さんと親父がどんな出会いしようが僕には関係ないと思った。僕は僕。親父は親父。母さんは母さんだ。   だけど……    
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