第3話:重いドアの先

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「うわっ………!」 後ろからいきなり轟いた大きな音に驚いて、僕は思わず声を上げてしまった。 慌てて後ろを振り返ると、ついさっき僕が開けた扉が、知らないうちに閉まっていた。 僕の体1つ分ほどしか開いていなかったこのヤケに重い扉は自らの重量か元からそうゆう仕組みだったのか、何の力も加えられていなかったもんだから勝手に閉まった、とそんなトコだろう。なにもあんなに大きな音を立てなくったって良いだろうに。 生きてるわけでもない鉄の扉に心の中で悪態をつきながら僕はもう一度、甲板の方へと振り向いた。 その次の瞬間、僕は初めて、「声を失う」なんて経験をした。 甲板の先に立っていた漆黒の髪の女の子、彼女が、こちらに顔を向けて僕を見ていたのだ。 「……………」 「……………」 僕は何も喋れなかった。彼女も、驚いたような顔で僕を凝視したまま、なにか喋り出そうとはしなかった。 彼女のびっくりした顔を見て、僕はようやく、彼女が僕を見るのは当たり前の事だと気づいた。 あれだけ大きな音が僕の近くで鳴ったんだ。誰だって驚くに決まってるじゃないか。ましてそれが女の子だったらなおさらだ。 「あ、え、や、その、ごごご、ごめ……」 なんとか謝ろうと口を開くが、情けないくらいにろれつが回らない。なんだか顔も赤くなってきてる気がする。 それほどまで、彼女は綺麗だった。漆黒で膝まである長い髪と透き通った乳白色の肌もさることながら、小さめの鼻にふっくらとした唇。ほんのりと頬が赤らめていて、見据えるような瞳は大きめ。可愛い、よりも綺麗、というほうが彼女には近い。 その整った顔立ちがさっきからずっと僕をずっと見つめている。「あ」だの「ん」だのしか言えない僕の口もついに動くのを止め、銀色の甲板は、再び無言の世界になった。 「…………」 一体何を思ったのだろう。彼女は驚いて半開きになっていた小さな口を閉じて、そのままゆっくりとつり上げ、笑った。 彼女の微笑みを見て、僕の顔は更に赤くなる。心臓もバクバクと五月蝿く暴れ出し、それでも視線は彼女から話さない。 そんな僕が面白いのか、彼女は「ふふ」と小さく笑いながら、 こう言った。    
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