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季節は夏を迎えた。
新政府軍の兵器はイギリス製に変化し、その性能たるや人智を越えた殺傷能力である。その威力を前に、これは戦と呼べる代物なのだろうかと疑問さえ感じる。
古来より日本人が諸外国に遅れながらも行ってきた戦というものは、火縄銃を使い、刀と刀でせめぎあい、一騎当千の各々が武功を示すような場だったはずだ。
今、その面影が戦場から失せようとしていた。
諸外国からすると、日ノ本の戦はまだまだ野蛮な蛮族の馴れ合いだと言われる。
時代は刻々と変わっていくそれを実感する高良達である。
「刀にできることなんてもうないわな。」つい口から出た。
「そうですね。」あっけなく高良は返す。
「でもね、誇りはこれじゃないと守れない。」高良は刀を抜いた。刃こぼれの無いいい刀である。
「沖田さんと同じで私もこれしか使えないから。」これは冗談だろう。笑っている。
「俺もや。」服の下に隠している暗器や短刀を高良に見せるようにしながら困った顔をした。
(誇りを守る…ね。)
町は火の海、若松城が落ちるのは時間の問題。土方は一つの決断を下した。
「仙台へ行く。」幹部を集めての会議である。
「仙台?」
「あぁ、陸軍の次は…」
「……海軍ですか?」その声を発したのは察しのいい高良だった。
「ちょっと待ってください!」声を荒げたのは斎藤一である。
「会津を見捨て、今度は仙台へ向かう気なのですか。」斎藤が声を荒げるのは珍しい事だ。
「奥羽越列藩がどこまで持ちこたえられるか分らん。援軍の申し出は断られ、押されているのは目に見える事実だろう。榎本武揚殿が率いる海軍に合流する。」
土方が庄内藩に援軍の申し出をしに行った時のことである。助けを乞う彼に突きつけられたのは、入城さえも許されない自分達の存在であった。どれだけ幕府に尽くしてこようとも、ここで重要視されたのは身分という空っぽの器。
土方は唇を噛んだ。
「ですが…」その事実は斎藤とて何も感じなかったわけではない。
「斎藤、お前は残ればいい。」土方はあくまで当たり前のように言う。
「副長。」島田や山崎らも会津に残る気でいるようである。土方に着いていくという意思は示さない。
「お前に任せる。俺は仙台に行く。」土方は一人そう言った。皆が押し黙る中、高良だけはピンと手を上げて言う。
「私と鉄は土方さんに着いていきます。」ぎょっとする鉄之助をよそに高良は言い切り、土方を見た。
「よろしいですね?」
「……好きにしろ。」
新選組が2隊に分かれることとなった。
土方に着いていくと言った隊士は少ない。
その筆頭が高良なのだ。山崎は複雑そうな顔をしていた。
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