20.永倉新八の胸中

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江戸で米田圭次郎が率いる隊と合流し、フランス式の戦闘訓練を行っていた矢先に、勝海舟が江戸城無血開城を成し遂げてしまった。 新撰組同様、宇都宮城の戦いに進軍し、壬生の戦いにて敗走。永倉は会津藩へ援軍要請に向かう途中なのである。 「永倉、めし。」そう言って背後からやってきたのは永倉と同門の芳賀である。永倉よりも高い長身の男で、すっと上向きに伸びる眉毛が利発そうに見える顔だ。手に持っているのは山菜である。 「おぉ、左之は…」 「向こう側の山道が通れるか見に行った。」 「そうか。」永倉の言葉数は少ない。 芳賀はその山菜をバリバリとかじっている。 「……少しは眠れたか。」 「え?」 「いや…お前に言うか言わまいか迷ったんだが、最近うなされていることがよくある。お前、あまり寝てないだろう。」 「夢見が悪くてな…」 「それに同門だった頃は、お前もっとこう…明るい奴だった気がするんだが。」 そんな言葉に永倉は乾いた声で笑った。 「いつの話だよ。」 「お互い変わるものだな。」 「あぁ。」 そんな会話の最中である。原田が戻ってくる。 「山道の方から回れそうだ。」 「長居は無用だな。行くぞ。」永倉は芳賀との会話を中断し、早足に歩き出す。 「新八となんかあったんですか?芳賀さん。」 「……いや、あいつ雰囲気変わったなと思ってな。」 「…大切なもんが無くなると、人は迷走しますよね。」原田は困り顔で永倉の後を着いていく。芳賀は何の事か分からず聞こうとしたが、それをやめる。 「それにしても暑いな。」夜中だというのに空気が蒸しているのだ。
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