20.永倉新八の胸中

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 山崎は会津に残る斎藤らと共に、城下で戦いを繰り広げていた。監察の利を生かし、駆ける。情報収集や伝令には余念がない。 一つ見覚えのある背中に遭遇することとなる。 「え?」 原田左之助である。見張りをしているのか辺りを気にしている。近くに永倉の姿は無かった。こんな街はずれで何をしているのかと気にはなったが、山崎は原田の前にそっと出向いた。 「…山崎か?」黒装束に身を包み顔の半分まで隠れているのに、原田はすぐに山崎を見抜いた。 「お久しぶりです。」 「お前、なんで会津に。」 「新選組は会津戦争に参加しているんや。」顔に覆われた布を取りながら山崎が言う。 「そうか、土方さんならそうするか。」 「原田隊長、頼みがあるんや。」 新撰組に今、土方は居ない。その内情は原田には言わない山崎である。 「俺に?」原田は怪訝な顔である。 「これを永倉隊長に渡してほしい。」それは小さくたたまれた文である。 「新八にか。」 「俺のお節介や。 」山崎はそれだけ言うと、踵を返して歩き出す。 「左之、遅くなった。」永倉と芳賀が戻ってくる。 「どうした…」道の方を凝視していた原田は小さな紙を握っている。それを永倉の手に握らせるのである。 「左之?」訝し気な顔で永倉はその紙を開いた。 走り書きで書かれていたのは高良生存の知らせである。 「……左之、これは。」 「山崎が。」 「山崎が置いていったのか?」原田はぶんぶんと頭を縦に振った。 そこには土方と共に仙台に向かったことが書かれている。 (生きてる…) 嬉しさが込み上げる。新選組を出る時、鉄之助に彼女の事を知らせなくていいと言った。本当の所怖かったのかもしれない。高良の存在が大きすぎて。 「高良は生きてる。」永倉はそれを声に出した。それだけで息苦しさが楽になる気がした。原田も喜びに満ちていた。芳賀だけはなにが起こっているのか分からず、ポカンと2人をみているだけであった。
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