20.永倉新八の胸中

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「これで胸のつっかえは消えたか?」左之助はニヤッと言う。永倉新八にとって高良がどんな存在か良く理解している。 「あぁ。」その知らせは永倉を奮起させるには十分だった。しかし、状況は最悪である。 「取り込み中の所申し訳ないが…悪い知らせだ。」芳賀は火の回る町を見ながら言う。 「…ここまでか。」北の要所、会津若松城はまだ落ちていない。しかし、戦うには状況が不利すぎるのだ。 「…お前はどうする。」 「俺は、ここに残る。」左之助の返事は早かった。 「一人残り、何ができるというのだ。」 「まだ、城は落ちてねぇ。それに俺は俺を曲げられねぇ。」 「城はまだ落ちてねぇ……」左之助の目は爛々としている。 「高良は仙台にいるんだろう。お前、芳賀と一緒に松前藩に帰参しろ。」 「…松前を離れたの、何年前だと思ってんだ。」武州の試衛館、近藤の道場に入る前の話である。生まれ故郷の藩を捨てて外へ出た。 「お前は生きなきゃなるまいよ。」左之助が強く言う。 その会話を芳賀は黙って聞いていたが、永倉の足がなかなか動かない。 「…永倉よ。お前、何のために藩を抜けてここまで来たか思い返したことはあるのか。」「藩との思想の違いを思う存分思い知らされただろう。その思いから故郷を捨てたのではなかったか。信念を曲げてまで…ここに残ると言えない望みとは何なんだ。」芳賀が怪訝そうに言う。 そうなのだ、以前の芳賀が知っている永倉新八とは違う違和感がある。再会した時から感じていたそれは芳賀の中で確かな確信に変わる。 松前藩は新政府軍についている。戻るという事は今までの信念を全て捨て去る事だ。 「俺は…」崩壊しかけた町を眺めて、永倉は困ったよう芳賀と左之助に笑いかけた。 「松前に戻る。これは寝返るわけじゃねぇ。今の立場ではできないことができるかもしれない。時間がかかってもいい。…どうしても会いたい人がいる。」 それを聞いた左之助は満足そうに笑ってじゃあな。とそれだけ言うと、会津の町を駆けた。 「戻るのは難しいぞ。」芳賀がぽつりと言う。 「覚悟しているさ。死ねないんでね。」 「お前のような男を奮い立たせるその高良という女…どんな女なのか、会ってみたいものだな。」女だと断定している芳賀は聡い。 「……俺には勿体ない程の美しい人だよ。」永倉は芳賀と共に事後処理にあたり、翌日会津を出るのである。
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