21.蝦夷五稜郭に散る

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「死ぬなんて許さない。」高良は土方を睨む。 「…お前の命をかける様な価値はない。」土方は明後日の方向を見たままキセルの灰をどす黒い海にはらう。 「全てを捧げたっていい。」高良の手は自然と土方の袖を掴んでいた。まるで哀願する様に。 土方はため息をつくと、キセルを船のヘリに置き、袖に伸びた高良の両腕を引く。両手を引かれ、土方の顔がまじかにある。息が詰まるほどの距離だ。高良は息を潜めた。 真剣な顔は眼光鋭く、整った綺麗な土方の顔が、高良の唇を優しく奪った。触れるだけのその仕草。 「……」高良は驚き、顔を真っ赤にする。 「抱える全てのものを愛しむのは結構だが…良く考えてから言葉を紡ぐ事だな。」 「何を…」 「お前の心の置き所はどこにある。生き抜くために切り捨てる事を覚えろ。死んだ奴に縛られて、何度身動きが取れなくなった?」 ! 「お前はどこまで行っても女だよ。」その言葉は罵られるようでいて、優しい響きがあった。土方の右手が高良の頬を撫でる。マメのある大きな手だ。 「女である事を捨てられない。……いや、捨てなくていい。」 「分かりません。何が言いたいのか。」高良は戸惑う。 「…混沌としたこの戦の先にお前の居場所がある。望む事もあるだろう。だから俺が新選組そのものだと思うのなら、切り捨てていけ。お前が本当に欲しいものを求めろ。お前が戦に参加する理由を俺にするな。新選組に捕らわれるな。先を見失うな。」 土方に何度言われたことだろう。見失うなと。 「…そんな事言わないでくださいよ。」高良の声は泣きそうだ。 全部大切なものを抱えていきたいと願う。何も失いたくないのだ。失う恐怖は、彼女の胸に大きな傷となって刻銘に残っている。 腕を離した土方は、それからは何も言わなかった。ただ一緒に隣にいて船から大海原を眺める。隣にいる土方の体温が伝わってきて、高良の胸が熱くなる。 この船を下りればそこはまた戦場で、いつ死ぬかもわからない場所で。土方はこの戦で終焉を迎えたいと願う。生きて欲しいなんて軽々しく言える事ではない。
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