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蝦夷の冬は雪深く師走の12月がやってくる。箱館と松前を奪取した旧幕府軍は建国の為、着々と準備に明け暮れていた。土方は目まぐるしく動いており、高良らは松前の町の再建に着工しながら見回りや見張りを行い、久々に穏やかな日々が訪れていた。
「なぜこんなにも寒いのだろう。」
「ですね。」見張り台に2人で座り、1枚の毛布に身を包む。
「あれ?」
「鉄?どうした?」
鉄之助が目を凝らす場所は福山城の背後にある山肌である。小さな明かりがゆらゆら動いている。
「鉄……敵の監察の可能性は?」高良よりも目が良い鉄之助がその特徴を捉える。
「……動きがかなり速い。忍の者の可能性もあります。あの動かし方…こちらへの合図でしょうか?」
「人物を見て判断する。行こう。」高良が刀を握り、鉄之助鉄砲を持って見張り台を降りる。山間に近い見張り台だった為、その怪しい人物を走り出した2人がすぐに目でとらえる。
刀で斬りつける高良に対して、鉄之助は火器や銃器の扱いを積極的に習っている為、後方で構える。
「……旧幕府軍の者か。」高良は問う。じりじりと近づき、その人物の動きを観察した。
「その声、高良か?」
「え? 」
「山崎さん?」そこにいたのは会津で別たはずの山崎丞そのひとである。「伊代さんも…」忍である伊代も一緒である。
「お久しぶりです。」
「何故…」
2人は顔を見合わせて笑い、「やっぱりな…土方さんに俺らの力が必要と思って、蝦夷まで伊代を呼び出して来たんや。」
「このまま何もせんと、悠長に暮らしているのは私らしくないと思って。」伊代も笑いながら土方を助ける為に京都から来たようだ。
「副長喜びますよ!」
「丞君…良かったのですか?土方さんについていけないと言った貴方がここまで…」
「結局…会津は落ちた…副長は会津若松が落ちると判断して、先を見越してここまで来たんだろう。あのまま会津を見捨ててすぐに、新天地を目指すってのは副長だから出来る判断だったと思うんや。俺にはできへん…でも、あの人に付いて行きたいっていう思いはずっと持ってる。」
「そっか…良かった。」
「忍の力がまだ使えるって所、見せてやるよ。」
山崎と伊代が合流し、土方と再会した。土方は驚いていたが、久々に笑顔を見せて山崎と伊代を迎え入れた。
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4月
蝦夷の豪雪がやみ、雪解けの頃、新政府軍が乙部に上陸、函館奪取を目指し進軍。
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