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「300人でこれを迎え撃つのですか。」高良はその圧倒的な数の差に少し身震いをしていた。山崎達の報告だと敵数約2000、その差、1900。
「函館を何としても守り切らなきゃならねぇ。気合い入れろ。」土方の口が少し笑う。
「……楽しそうですね。」
「障害があっただけ燃えるもんよ。女と同じだ。」
「今までそん風に戦してたんですか。」高良は呆れたように言う。
「今までそういう事、絶対に口にしなかったですよね。」
冗談なのか本当なのか、土方は自身の胸の内をよく話すようになった。高良は土方が自己を整理しているようで話してくれる事の嬉しさよりも寂しさを覚えてしまうのだ。
「……二股口は守り切るぞ。」高良の頭をわしゃっと撫でで、土方は指揮につく。高良は自身の持ち場に着くが刀ではなく、肩に鉄砲を所持していた。
(私にできるだろうか。)
一人だけ刀を背中に背負い、銃を構える。近接戦闘がこの頃には完全に一般的ではなくなった。当初、刀で戦うと言い張っていた高良だが「犬死する気か。」と土方に窘められ、渋々銃の習いを始めたのだ。
土方らが守る二股口300人、大島圭介が守る木古内500人その勢力差は覆ることはなかった。
「撃て!!!!」
一斉に始まった射撃と爆音。弾を詰め替えながら、高良も必死に応戦した。
(これは……)飛んでくる弾の数が明らかに違う。周りの仲間がどんどんなぎ倒されていく。悲鳴も起きない。高良は手を止めずに必死に球を打つ。周りが倒れていくのを気にしてなどいられない。照準を合わせる手が震えていた。
(武者震いじゃない……これは圧倒的な恐怖だ。)
戦闘は8日間にも及んだ。土方率いる二股口は、その間を守り切るが、大島圭介率いる木古内が落ちる。
「何?通路を分断された?」不運は続き、二股口と函館を結ぶ通路の陣営が落ちたのである。これには二股口を守り切った土方も頭を抱えた。
高良はその本陣営の知らせなど知らずに鉄砲隊としてその間休まず、戦に臨み続けた。高良たちの隊が敵陣に向け、発砲を繰り返していた時である。
!!!
背後からの奇襲に合う。配列が乱れ、近接戦になった。高良は久々に刀を抜く。手入れだけは怠らなかった刀身が光る。
「ぁぁぁぁぁぁ!」
叩き伏せる。捻じ伏せる。不思議な髪をした刀を持たせたら一騎当千の高良の姿は敵味方を恐怖に陥れた。
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