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「なんだ…あの青い悪魔は。」
数では有利のはずの新政府軍の兵士がその刀さばきにバタバタと倒れていく。返り血を物ともしないその鬼神ぶり。敵を殲滅する高良に遠くから銃口が向けられていた。
音もなく高良の腹部に銃弾が当たった。
「ぁッ…」高良が地面に倒れる。
(当たったのか…)痛みとは裏腹に頭は冷静だった。仲間の一人が高良の腕を掴むと、起き上がらせる。
「…走れるか?!」
奇襲をした新政府軍の兵を高良は見渡す。数はまばらだ。その青年に安全な所まで肩を貸してもらい、着物を破り、傷を確認する。
「……お前、女。」青年は固まったように驚いている。腹部をかすっただけのようである出血はあれど、大事ではない。
「…女では、この戦に参加してはいけないのですか?」胸の晒しを少し外し、傷口に強く巻く。
「結んでください、自分では力が入らない。」高良は青年に頼む。青年は黙って高良の言う通り晒しを結んでくれた。
「……なぜ。」それは当然の問い。高良はその問いには答えなかった。
「刀なら……あいつらを皆殺しにできるのに。」弾丸が飛び交うその中で高良は歯がゆい思いを口にした。
「…仲間を守ってくれて、感謝します。」青年は高良を非難しなかった。
「当然の事です。」さも当たり前のように高良が言う。
「撤退ー撤退ー」その声が響き渡る。
「……これだけの打撃だ。木古内が落ちたのかもしれない。撤退も無理はないな。」
「…冷静ですね。」
「戦の中にずっと身を置いてきましたからね。」
「…肩を貸します、どうぞ。」
「ありがとう。」青年に向かって高良は笑った。
高良の思った通り木古内が落ち、通路は分断され、高良達に至っては奇襲を受ける始末。土方の率いていた軍はその3分の2を失った。
海上の要である開陽丸。榎本武揚が所有する旧幕府軍の海上戦艦を松前で失っていた海軍は新政府軍の旗艦である甲鉄を奪取する計画を立てるが失敗に終わり、蝦夷共和国の実現は難しくなっていく。
「…函館に通じる幹線が」
この敗退から、孫政府軍の勢いは更に強まり、五稜郭を主とする函館を結ぶ幹線の町や通路がことごとく寸断される。土方らは窮地に立たされていた。
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