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「くそッ!!」
(腕が上がらなくなってきた。片目も霞む。)
ヒュンッ!!
高良は刀を握り直す。眼前に広がる黒い制服の新政府軍の兵士。気を抜くと、飛び交う弾丸に当たってしまう。敵も味方もそれに倒れていく。
「こんなところで…死ねるか!!!!」
高良は隙間を見つけては隠れ、周囲の状況を確認しながら函館市街の門から動けずに刀を振るい続けた。
「高良さん!」伊代の声に思わず函館山に目を向ける。
「何!!?」
恐ろしい事に函館山からの奇襲である。その数数えきれない程だ。
「奇襲…これでは、持ちこたえられるか。」刀がカタカタと鳴っていた。
(また、恐怖を感じてるのか。)
「高良さん、後ろから来ます!」函館山に気をとられた高良が後方を振り返る。
ザッ!!!!
斬られた腕が上がらない。高良は腕を庇う為、手で刃を受け止めた。
「くッ!」
「高良さん!」すかさず伊代がとどめを刺す。
「利き腕をやられるなんて…」
「ここは一旦引きましょう!」しかし、高良は頑として、この門を動こうとはしなかった。
「私がここを動くわけには行かない。伊代さん、今すぐ手当をお願いします。」
「……」高良は函館山を見ている。ここから引く気などなかった。伊代は高良の斬られた腕にすかさず、手拭いをきつく巻く。高良は腕が動くか指先を動かす。痛みに脂汗が出た。
「土方さんはすぐにこの異変に気付く。ここを守り切りましょう、伊代さん。」高良は手負いのまま伊代と別れ、すぐに兵士を切り倒す。その気迫は長年近くにいた伊代ですら恐ろしいと思うほどであった。
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土方は七重浜に駆けつけ明治政府軍を押し返す。七重浜は少し高台になった海辺である。ここに上陸した新政府軍を返り打っていた旧幕府軍が押されたのを五稜郭から確認した土方は、ここまで増援に来た。
増援のおかげで新政府軍の勢いを削ぐことに成功するが、そこから恐ろしいものを配下が見つける。
「土方様!函館山が!」
函館山からの明治政府軍の奇襲部隊が函館市街に攻め入ったのを七重浜から確認した。山の中を進む黒い影が山を下りている。
(高良…)
「函館山からの奇襲か!!急げ!函館市街に戻る。ついてこい!!」土方は馬に跨り、たずなを強く握った。50名の兵を率いて函館市街を奪還するために急ぎ戻る。
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