信長と帰蝶

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「ただ……」 「ん、どうしたというのだ?」 「いえ、何でもありませぬ」 「ハハハハ、いつものお前らしくないぞ」 信長は、自身がうつけと呼ばれているのにさほど嫌悪感は示さなかった。 むしろ、そういった世評を世に出来るだけ広め、諸勢力の自身への警戒を解かせようとする狙いもあった。 「信秀の代は織田も安泰だろうが、信長が家督を継いだ時点で簡単に攻め滅ぼせるだろう」 こう思わせる事により、織田の勢いは止められないものとなる。 1560年、これが証明される事になるのだが、それはまた後の話し……。 問題は、その事を道三が見抜いているのかということだった。 もし見抜いているのであれば、道三もそれ相応の洞察眼と器量を持っているという事になる。 しかし見抜いていないのならば、帰蝶との婚姻も拗れるのではないかという不安もあった。 だが信長もまだ若輩者。 こんな事を進言しても、信秀には笑われてしまうだろう。 かと言って教育係の政秀に持ち掛けても、一蹴されてしまうかもしれない。 しかし、そこは決断の早い信長である。 あえて道三に揺さぶりを掛けてやろうという決意を固めた。 信長はその場を立ち上がると、信秀に一礼して小姓を引き連れて座敷を離れた。 信秀は信長を不信がったが、道三との仲を拗れさせない為にも無用な詮索は控える様にした。 そして夜は更け、いよいよ会見の日を迎えた。 信秀と信長は500人ほどの手勢を従え、稲葉山城へと向かった。 稲葉山城の兵達は、信秀と信長を丁重に通し、僅かな兵を残して城の防備を固めた。 信秀と信長は、稲葉山城内の構造の複雑さや壮大さに改めて驚いた。 この城は、後々信長も居城とするほどの難攻不落の城である。 やはり婚姻は正解だったと、信秀は改めて感じていた。 座敷へと通された二人は、兵で固められたさらに奥へと通された。 やがて最奥部へ着くと、そこには道三と帰蝶、道三の息子・義龍、さらに数名の兵が控えていた。 「おお、わざわざ御足労をお掛けして申し訳ござらぬ、信秀殿。 そして……わしの息子ともなる信長殿よ」 「いやいや、こういうものは男が来るものですからな」 信秀と信長は正座し、改めて道三の方へ向き直った。 「堅苦しい挨拶は終わりにして、さ、お二人共足を崩して下され」 道三は足を崩すよう二人に進め、信秀は足を崩して胡座をかいた。 だが信長は、あえて片膝を立てて道三を睨み付けた。
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