信秀の決断

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古渡城へと戻った信秀一行は、城を守っていた家臣達にさっそく帰蝶をお披露目した。 兵達は帰蝶の美しさに惚れ惚れするばかりで、美男美女夫婦の誕生に沸き立っていた。 婚姻を機に信長の奇行も止むと思っていた信秀だったが、この日以降も信長の様子はいつもと変わらなかった。 相変わらず小姓を引き連れ、服をはだけて街を練り歩く。 まさに餓鬼大将そのものだった。 信秀は相変わらず頭を抱え、帰蝶に信長の行いについてどう思うかを聞いてみた。 「帰蝶、あれが普段の信長なのだが……どうお思いかな?」 「ふふ、ならば私は、妻として、信長様を見守るだけです」 「ウーム、しかしだな……帰蝶のお父上の頼みを、簡単に反故にするわけにもいかんだろう」 「お父様の事は、ご心配なさらないで下さいまし。 私は織田家に嫁いで来た者ですから」 「ハハハハ、そうか。 信長にはもったいないほど聡明な女性よな」 改めて帰蝶の聡明さと寛大な心を確認した信秀は、高笑いしながら座へと戻って行った。 帰蝶は一人、これまでの信長の行いを思い返してみた。 信秀の話しによれば、あの奇行が普段の行いだという。 やはり噂は本当だった。 「うつけならば斬れ」 道三の言葉を思い出した帰蝶だったが、嫁いで来てまだ数日、もう少し様子を見てみる事にした。 この年は、織田家にとっては比較的良好な年だった。 なぜかと言うと、前年の天文17年(1548年)、信秀は松平広忠から奪い権益を保持していた西三河と安祥城を拠点に、本格的に広忠本拠の岡崎城へ進軍を始めていた。 信秀は、自分が竹千代を人質としている事を盾に松平を懐柔しようとしたが、広忠はこれを一蹴し、今川に助けを求め、あくまで徹底抗戦の構えを見せた。 かくして、織田対今川・松平連合軍の構想となった第二次小豆坂の戦いの火蓋が切って落とされたのである。 4000余りの兵を率いて出陣した信秀だが、今川軍の天才軍師・太原雪斎の策や松平軍の徹底抗戦に苦戦し、後退した所にさらに待ち構えていた今川軍の伏兵・岡部元信にも散々にやられ、命からがら安祥城へと撤退したのだった。 道三と同盟したのは、北の憂いを無くし、東との戦いに専念する為でもあったのだ。 結局織田軍は、この後も攻めてきた雪斎率いる今川・松平連合軍に安祥城を奪われ、信秀の長子・信広が今川軍の人質に取られてしまい、竹千代と人質交換せざるを得なくなってしまったのだった。
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