信秀の決断

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「……分かった。 俺もすぐに戻る」 秀貞は信長に一礼し、直ぐさま反転して城へと引き返した。 信長もその後を追うように、一目散に城へ戻った。 信秀に謁見した信長は改めて事の詳細を聞き、静かに頷いた。 信長にとってみたら、信広は兄でもあり同胞でもあったから、この件に関しては同意せざるを得なかったのだった。 そして人質交換を翌日に控えた夜、信長は厳重な警備の中にいた竹千代の元を訪れた。 初めて鷹狩りに誘った日から2年あまりが経つが、竹千代も幾分か背も伸びて成長していた。 竹千代は訪ねて来た信長を見ると、すぐに手を付いて頭を下げた。 「信長様、わざわざおこし頂くとは……恐縮です」 「おいおい、頭など下げるな。 俺とお前の仲だろう」 「……はい」 信長は家臣達を下がらせ、座には信長と竹千代の二人だけとなった。 まだ8歳ばかりの竹千代にこの状況は重くのしかかるのか、正座したまま顔は強張っていた。 「お前も、明日には織田を離れて行くのだな」 「拙者が無事にいられたのも、信秀様と信長様のおかげですから……」 「俺と父上は何もしていない。 お前を人質としてしか考えていなかった」 「はい……」 「竹千代、明日にはやっと父上に会えるのだろう。 元気でいるのだぞ」 信長は竹千代の肩に手を置くと、ポンと叩いて立ち上がり、座敷から出て行った。 翌日、数十名程の兵に守られながら、竹千代は尾張を離れて行った。 信長はあえて見送りには出ず、鷹狩りに精を出していた……。 そして、松平家との合流地点で人質の交換が行われた。 信広を連れて来たのは、松平家の重臣であり古くから仕えている酒井忠次ら一行であった。 竹千代の姿を見た忠次は、ついその成長ぶりに涙を流しそうになってしまった。 こんな幼い歳から人質という境遇に見舞われ、まるで物のように交換される。 忠次は竹千代が不憫でならず、ようやく実父である広忠へ会わせられるという喜びに駆られていた。 竹千代は忠次らに守られ、そのまま岡崎城へと入城した。 古くからの家臣達は、ようやく帰還した竹千代に涙を流して喜び、一斉に頭を下げ、広忠の元へと通した。 「殿、竹千代様がお着きになられましたぞ」 「真か!? よし、直ぐにここへ通すのだ!」 広忠の言葉のすぐ後、小さいながらも凛々しい顔をした少年が入って来た。 これがやっと実現した、親子の再会であった……。
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