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信長は、何故か不思議な気持ちになっていた。 何をこんな小さい子供に動じているのだろう。 これは信長自身が一番感じていることだった。 破天荒で自由に生きてきた信長にとって、こんな幼い頃から人質という境遇に見舞われる竹千代が不憫でならなかった。
「竹千代君よ、今信長は鷹狩りを行っていた所なのだ。 どうだ? 竹千代君もご一緒に」
「こ、これ信長!」
無論この時代では、重要な人質を簡単に城外へ出すなどもっての他だった。 だがこの頃から肝が座っていた竹千代は、臆する事なく鷹狩りに興味を示した。
「拙者……行きまする」
「そうか。よし、行こうぞ」
この事について頭を抱えたのは信秀のみで、康光は特に止めはしなかった。 康光も、幼子である竹千代が人質という境遇には不憫に思っていたのである。 頭を抱えていた信秀だが、座を出て行った信長と竹千代を見て慌てて平手政秀に声をかけた。
「政秀、お主も付いて行ってやってくれ。 信長が竹千代君に余計な事を吹き込まないよう見張っておくのだ」
「しょ、承知しました!」
政秀が信長達の後を追って座を出て行くと、信秀と康光の談はまだ続けられた。
一方の信長は、馬に乗る自身の身体の前に竹千代を座らせ、待たせている数人の小姓の元へ舞い戻った。 この鷹狩りの経験が、後に竹千代の趣味となり、長寿となる秘訣となっていく……。
城の信秀は、改めて康光に自らに下った真意を問うていた。
「手紙だけではお主の真意は計りかねるのだ。 今一度、訳を申してはくれんかの」
「えぇ、お話しします。 そもそも、拙者が今川に従っておりましたのは、拙者が元々仕えていた松平家が今川の力に屈服して従ったからであります。 松平は元々信秀様もご存知の通り、清康様の元で地位を築いておりました。 ですが清康様が天へと召されると、松平家の力は急速に衰え、清康様のご子息である広忠様は今川に従属する道を選びました。 元々松平を頼りにしていた拙者にとって、それは重大な意味を成しておりました。 拙者の弟である宜光は今川に着きましたが、拙者はそのような真似は許せないのでございます」
「ほう…それでわざわざ危険な我が方へと参ったのか」
「そうでございます」
「先ほども言ったが、今川の矛先はわしらにも向けられるだろう。 無論その時は迎え打つが、竹千代の扱いはどうするのだ」
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