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ケイスは、ACガレージでタバコを吹かしていた。
昨日の酒が抜けていないのか、ぼんやりとした眼差しを愛機に向けている。
そこへマリアがやってきた。どうやら、ミッションのブリーフィングを行うつもりらしく、丁寧にファイリングされた資料を小脇に抱えていた。
「どうした?シャキッとしないな」
声を掛けられたケイスはゆっくりと視線をマリアの方に移す。
「ああ、少し昔のことを思い出してな。二日酔いのせいだ」
ポンポンと軽く頭を叩いておどけてみせるケイス。
だが、その顔には生気が感じられない。
見るに見かねたマリアが溜め息を一つつく。
「だから、酒は程々にしておけと言っているだろう」
そう言ってケイスの機体に目をやる。
「それにしても、お前にしては以外なカラーリングだな」
白いケイス機を見てマリアが言う。
「まあな。ま、色々あったのさ、昔にな」
ケイスも愛機を再び見遣る。
その視線には自身の記憶を反芻し、懐かしむものがあった。
ただ、その愛機のエンブレム。肩に描かれた、インクの染みのようなデザインを見ると、ケイスの視線は一転し鋭くなる。
マリアはそれを見逃さなかった。
ケイスがそのような視線をする度に、やはり彼は戦場を生きてきた人間なのだと彼女は思う。
不意にケイスが視線をマリアの方へと向けた。
「そろそろ始めようぜ、ブリーフィング。パーティーに遅れちまう」
くわえていたタバコを地面に捨て踏み消す。
一瞬、足元に紫煙がゆれた。
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