イギリスの孤児

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  「えぇと、とりあえず、迷惑かけてごめん…ありがとね、二人共」 「いいよ、別に。…弟、熱出してんでしょ。なんか必要なモンがあったんじゃない?」 「う、うん…目が覚めた時に、何か食べさせてあげたくて」 「そっか」  ユナが肩をすくめ、アリスは困ったように優しく微笑んだ。 「マリアに頼めば、聞いてくれたのに。遠慮しないでよマヤ」 「そうそう。ウチはさ、昨今じゃ珍しいくらい、マトモな施設なんだから」 「そうよ、しかもこんなマトモじゃない厄介者も、マリアは置いてくれてるのよ?」  こんな、と雑に指差されたのはユナだった。アリスはやれやれ、と首を振る。 「心の広さっていったら、計り知れないわよ。わたしだったら当の昔にたたき出してるわ」 「超否定しづらいんだけどアリスさん」  まだ作り笑いを引きずりながら抗議するユナ。 「…わたしたち、本当の兄弟じゃないし、マリアは本当の親じゃないけど」  マヤの肩に手をやり、アリスが言った。その言葉にたいする寂しさといったものは、微塵も感じさせない明るい声。 「でも、信頼し合える家族にはなれると思うのよ。本当のじゃなくてもね」 「ま、一緒に暮らす限り、他人でいるほうが難しいしね」 「ユナ、茶々入れないで」  そんな二人のやり取りが可笑しくて、マヤがクスクスと笑いを漏らした。  まだ親を亡くして日の浅い自分を安心させようとしての気遣いが嬉しく、素直にそれが有り難いと思う。  二人の中には悲観も虚栄もなく、事実を受け入れたうえで今の境遇を楽しんでいた。  現実を生き抜く強さが、ストレートに伝わってくるのだ。  
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