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滅亡の瞬間
あちらこちらから、悲鳴が聞こえる。
燃え盛る家から
道端から
焼け落ちる音と業火のような炎の音に雑じって、怒号と断末魔が。
まるで悪夢のような世界。
「王妃様、ミハリア様」
護衛の兵士が、鬼気迫る様子で扉から漏れる煙を防ごうとする。
やがて炎はここにも侵入を果たすだろう。そうなれば、もはや退路はない。
なぜこのようは部屋に逃げ込んだのか。
否、逃げ込んだのではない。
王妃ミハリアは、今まさに儀式の最中であった。
「ミハリア様、お急ぎ下さいまし。魔獣が放たれております、見つかるのは時間の問題でございましょう」
巫女の一人が、赤子を抱きひざまずくミハリアに告げる。
神儀の間。
ここは儀式を執り行う部屋。
「……この子は、無事に育つのでしょうか」
苦しみに満ちても尚、美しく整った顔。その双眸は、腕の中の赤子に向けられていた。
健やかに眠るその稚い額には、エンブレムのような紋様が記されている。
「女神レキアトスの御加護がございますわ。必ず、ご立派に成長なさって、やがてこの地に御帰還下さいます」
王妃を励ますように、少しも不安も見せず巫女は言った。
そこには、少なからず自身の願いも篭っていたが、しかし心から信じているのだ。
この赤子こそ、世界の希望、と。
だからこそ、ここで死なせるわけにはいかない。
失うわけにはいかないのだ。
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