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「最後の祝福を」
「神の言葉を紡がれるのです」
「この一文で儀式は終わります」
部屋の中央に座すミハリアを囲み、巫女が祈りを捧げる。円を画いた線が光を放つのを確認し、その顔に決意を浮かべた。
愛しげに我が子に触れ、そのふくよかな頬を幸福そうに撫でる。
ああ、
これが、陛下と二人で過ごしたいつかの午後だったならば、もっと幸福であったのに。
「ナターシャム、愛しい我が子……どうか…どうか幸せに…」
この先どんな苦難がまっているだろうか。
それを課せられた我が子。
「愛しているわ…ナターシャム。いつまでも、何があっても…」
母として、貴女を支えてあげたかった。
「強くなるのよ」
涙が零れ落ちる。
炎が容赦なく壁を伝う。
その中で、王妃は古しえの言葉を紡いだ。
その直後。
閃光が
目を眩ませて
部屋はまばゆい光に包まれた。
そして、
光が失せた後、今度は炎が部屋を満たしていった。
なにもかもを焼き尽くして。
こうして、一つの国が業火の元に滅んだ。
王都は更地と化し、多くの民が虐殺された。
その中には王と后も含まれ、希望を見る者は誰ひとりとしてあろうはずもなく。
しかし、彼らの子供達の死については、判然としないままに行方知れずと語られていった。
生き残った者の、幻想譚か。細々とした支えと、僅かな光明に縋った噂話か。
誕生して間もない、この王国の第一王女、
ナターシャム・ウィル・トゥルーフィア。
トゥルーフィア王国の姫、彼女もまた、その中の一人であった。
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