集中豪雨のロンドンにて

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集中豪雨のロンドンにて

 よく晴れた朝、とはいかず、11時から小雨が降ってきて、ユナはフードを被った。  今日はカットソーにパーカーを羽織ったのみで出て来たが、少々寒さを覚え後悔。  とにかく、温かいコーヒーでも飲んでくつろぎたい気分だ。  日曜日でバイトは午後から。それまでぶらついていようと思ったのだが、大人しく屋内で待ったほうがよさそうだ。  ユナは古書店の店員兼、事務兼、蔵書管理というバイトをしていた。  よくもまぁ自分を働かせてくれたなと、我ながら店主を感心してしまう。たいていは、名前と履歴を見ただけで門前払いをされてきた。たんに、ユナの悪名高さ、というわけではない。  ユナの養母『マリア・ハウンド』は、孤児支援団体の理事に名を連ね、自身も管理している福祉施設もあり、狭い世間では名の知れた女性だった。  当然、世の中には偏見を持つ者や煙たがる人間もいるわけで。  特に地域の良い場所ほど、孤児にたいする偏見はひどいものだった。  たぶん、ストリートギャングだの、未成年の犯罪が多発しているせいもある。  実際に親を亡くした子供の大半は、荒れている余裕などない。  よほど、劣悪な環境と境遇を余儀なくされた者でない限り。  逆に不遇の家庭を持った子供は、施設に入っても手を焼くことが多かった。  家庭にトラブルを抱えて荒む子供と、家庭が無い故に犯罪を犯す子供はやはり違う。  後者は、生きるか死ぬかがかかっているのだから。話し合いもクソもない、というのが多かった。 (やっぱ家庭って大事なんだなぁ)  妙なことをしみじみ考えていると、目当てのカフェを見つけた。  パソコンが置かれ、読書や会話を楽しむサンルームも用意された流行りのカフェ。ユナも気に入って、よく利用している。  この際、ネットで暇を潰そう。   (チェスの相手も見つかるだろうし)  思い立ったが吉日。  ユナは駆け足でカフェを目指した。    
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