一章 ヘンな部活を作ろうとするな

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おかしい。 楽しかった連休、世に言うゴールデンウイークが終わり、三日経った水曜日。 俺は目の前で、黒板の文字をノートに書き写しているクラスメイトの背中を見て唸っていた。 彼女に好意を持っているからでも、嫌いだから唸っているわけじゃない。 彼女――心美が大人しく授業を受けていることに唸っていたんだ。 嵐の前の静けさなのか? 中学のときは人にさんざん迷惑をかけといて、高校に入ってから大人しいのは何故だろう。 何かを企んでいるのかと勘ぐってしまうのは俺の心の狭さからくるものじゃないと思いたい。……それとも、少しは利口になった? いやいやいや、コイツが大人しいことはありえねぇ。 猫の皮を被ってんだろ? 心美の背中をトンネルの穴が掘れそうになるほど凝視していると、机に影が差した。 顔を上げると腰に右手を当て、反対の手には三角定規を持つ眼鏡を掛けた知的女教師が頬をひきつらせて立っていた。 数学の佐藤友梨先生(29独身)だ。 「朝比奈さん。あなた、わたしの授業がつまらないのかしら?」 やべえ、考えすぎて佐藤先生の存在に気付かなかった。 肩が震えているように見えるのは目の錯覚だろうか? 「そんなことは……」 慌てている俺に佐藤先生は無邪気な笑顔で断裁を下した。 「じゃあ、問3の計算式を答えてくれるかしら。わたしの説明したようにすればできるはずよ」 「……わかりました」 椅子から立ち上がり、黒板に向かいながらそれとなく心美のノートを見るとアルファベット三文字が飛び込んだ。 (FMKってなんだ?) 「朝比奈さん。どうしました?」 「何でもないです」 おっと、思わず足が止まっていたみたいだ。 ノートを見つめていた心美は俺の目線に気付くと、満面の笑顔をこっちに向けた。心美の表情が少々気になる(いや、かなりか?)がいまは、この問題を解答することにした。
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