その男、最悪

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 こんなところに賞金首が――しかもよりによってS級がいるはずがない。ユーリィはそう頭の中で何度も言い聞かせた。  しかし、この目の前にいる少年と手配書の中の賞金首はユーリィの疑問を問題としない程に似ていた。 (もし……! もし、この少年がリオン・ストラウスだとするならば、これは絶好の機会――!?)  S級に正面から挑んでも勝負にならないだろうが、この状況。少年はユーリィが自分を狙う賞金稼ぎだとは夢にも思っていないのだろう。  だからこそ、リラックスした様子で彼女の前で手配書を差し出している。  この状況でなら自分でも倒す事が出来るかもしれない……。ユーリィは逸る気持ちを抑えずにはいられなかった。  もし、この少年がS級賞金首のリオン・ストラウスだとして、見事討ち取る事が出来たなら、もうこんな賞金稼ぎなどしなくて済むし、”借金”も全て綺麗に返せる。  なら……やる事は決まってる。  ユーリィはこちらの思惑を気付かれないようにと、ぎこちない笑顔を浮かべて、少年にたどたどしい台詞で尋ねた。 「つ、つ、つかぬ事をお聞きいたしますが……」 「ん? 何? 早くして欲しいんだけど、俺急いでるから」  少年はユーリィに向けている手配書を上下に揺らした。 「お、お、お名前は、な、何と申すのですか?」  少年は意外そうに眉を潜めたが、投げやりに自分の名前を告げた。 「名前? リオンだよ。リオン・ストラウス。で、それがどしたの?」  ビンゴ――!!  ユーリィの胸が踊るように高鳴り、心臓が跳ねた。  ユーリィは覚悟を決めるように生温い唾を飲み込む。表情がどんどん強張っていき、掌が水遊びをしたように濡れた。  少年――リオンは明らかに挙動不審で自分に血走った目を向けるユーリィを怪訝な顔で見ているが、よもや自分の首を狙っているとは全く思っていないようだ。
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