第一章

9/13
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
放課後、教室で少しの間しゃべっていると、眼鏡をかけた背の高い男子が薫を呼びにきた。 「小畑、今日、緊急招集だって」 「あ、大山くん」 大山直樹。 賢そうな細身の眼鏡に、きちんと着付けた制服。声は甘くてなかなか心地いい響き。 彼の顔を見て頬を赤らめた薫に、わたしたちはにやにやと意地の悪い笑顔を浮かべて、ヒューヒューとすでに死語である言葉を発する。 もおっ、と怒って真っ赤になった薫が可愛くて笑うと、大山直樹がきゅっと眼鏡の位置を直してこちらを見た。 一瞬カチ合った目線に、にこり微笑まれて、わたしも笑い返す。 「ごめんね、会議みたいだから、行くね」 薫は申し訳なさそうに眉を下げて、大山と連れ立って教室をあとにした。 それを見送ると、瑛子もあ、バスケ部の練習があるんだー、と言ってドーナッツをくわえながらさっさと教室を出て行ってしまった。 「あ、そーだ、椎奈のお見舞い行こっか。」 残された二人で教室を出ながら言うと、ゆうはそうだね、と頷いた。 二人で赤い日がさしこむ廊下を歩きながら、ちらりと隣を歩く彼女を見る。 ふわふわの巻き毛、くりくりの目を彩る長い睫毛。何度見てもかわいい。 「しょーじょ漫画の、王子様みたいな人、転がってないかなぁ」 はぁ、とため息を吐いて、ゆうはくるくると白い指に髪を絡めた。 「ゆうは理想が高すぎんのよー。この前告白してきた人はどうだったの?」 「あれは告白っていうか、そういうんじゃないよー」 ゆうはかわいい。可愛くて、明るくて、見た目はまるで砂糖菓子のようなふわふわの女の子だ。 若干中身と性格にギャップがあるんだけど、男の子の友達も少なくはないし、それなりに告白される回数も多かった。 本人はそれを鼻にかけるわけでもなく、またモテているという自覚もない。 彼氏がほしい、と言いながら、言い寄ってくる男をさらりと交して、わたしはモテないと嘆く。変わった子だなぁ、と思った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!