贈り物

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かりかりと、シャープペンが走る音がする。 プリントの量、多くないか!? 「ね、洋。洋って桜好き?」 「え?あ…まぁ…」 突然唐突な質問をされて、しどろもどろになってしまう。 だが、更紗は気にしたようすはない。 「綺麗よねぇ…あれね、舞ってる花びらをキャッチするのが楽しいんだ」 「更紗らしい」 「そう?」 「だって、普通は見て楽しむものだろ?」 疲れた腕を休めるべく、大きく背伸びする。 更紗は不満そうだ。 「見てるだけじゃつまんない」 「更紗、いいこと教えてやるよ」 俺は椅子から立ち上がって、今度は机に座る。 「桜ってのは、花だけ楽しむものじゃない。その空間ごと楽しむんだ」 「空間?」 「そうだ。青い空も、暖かい空気も。周りの風景も全て含んだ空間を楽しむんだ」 更紗も手を止めて、頬杖をつきながら俺を見ている。 しばらくの沈黙。 時計の針の音だけが、空白の時間を埋めている。 「洋…」 更紗の声は、静かに教室に響いた。
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