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渡邊更紗。 この名の人間はもうこの世にいない。 それを思うだけで、胸が抉れる思いをした。 春休みのある日。 「洋君、今日三人で更紗のお墓に行かない?」 由美の一言に俺は更に現実を知った。 だが、いつまでも逃げている訳にもいかない。 あいつの墓は、真新しかった。 ここで、後から来る両親を一人で待つのか。 「更紗、来たよ」 花を供えながら、由美は言った。 正紀はずっと沈黙している。 「まだ、四十九日過ぎてないから魂はこっちにあるのかな…?」 懸命に笑おうとしていた。 だが、由美の頬には既に涙が流れていた。 線香をあげると、煙が舞う。 俺も煙のように消えてしまえればと。 由美と正紀は無言で目を見合わせると、俺に言った。 「俺達、水汲みに行ってくる…」 「ああ」 二人が去った後、俺はあいつの墓と向き合った。 視界が霞むのは、本当に線香の煙の所為だ。 「俺が…いけないんだよな」 一人で呟く。 『そんなことないよ』 きっと更紗はそう言ったと思う。 「俺がお前を一人にしなければ、お前は………」 『違うよ。きっと運命だったの。それに抗う術を私は知らなかった。だから』 そうやって…。 あいつはいつも『仕方ない』で括って。 俺もそうやって生きていくんだろう。
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