10年

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そろそろ春の匂いが 鼻を掠める。     青い空の下 チューリップの花束を持って 娘と 墓参りに来た。       私の親友のお墓だ……       綺麗に磨かれた墓石は あの時の親友の姿すら 面影を見せない。     「…ママ?」   「…うん ママの友達のお墓なんだ…」     小学6年になる娘は 無理して水の入った桶を 持っていた。     チューリップを活けて 水を入れてあげた。         もう春だね…       心の中で親友に話かけた。     線香に火をつけた。   線香の匂いが 辺りを包む。     「もしかして… 紗弥ちゃん?」     声の方を振り向くと 中年の女性が立っていた。   隣には 娘と同じくらいの女の子。
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