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記憶の始まり、
俺は人よりも遅かったのかもしれない。
あんたはまだ覚えているだろうか‥
あの日の事を、
俺は覚えている、あの日こそ俺の記憶の始まりだった。
あの日は、暗い空から雨が降り注いでいた。
狭くて薄汚い路地に俺は薄い衣を纏って座り込んでいた。
冷たい雨水が頬を伝う中、俺の耳は微かな足音を捉えた。
やがてその足音は近づいてきて、俺の目の前でそれは止まった。
『小僧、そんな薄っぺらい衣じゃあ風邪ひくぜ? 』
これが、あんたとの最初の出会いだった。
そう問いかけるように言うと、自分が纏っていたデカくて分厚い衣を俺に被せてきた。
『どうだ、あったけぇだろ?
小僧、それお前に貸してやるよ。
気が向いたら、俺の下に返しにこい。』
そう言い、あんたは俺の頭を軽く手で叩くと立ち上がり、俺の下を離れて行った。
『小僧、
外は広いぜ。
こんな狭い所じゃあ、楽しくねぇぞ。
自分の足で一歩踏み出せ。
そうすりゃあ、世界も広がる。
そこからがお前の始まりだ。』
その言葉を言い残すと、俺の視界からあんたは消えていった。
被せられた衣には、まだ温もりが残っていた。
未だにその時の温もりは俺の芯に焼き付いたいる。
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