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しかし、そこには何も、何もなかった。
「ねぇ、君名前は?」
声は下から聞こえてくる。ミヤは視線を遠くの地面ではなく、真下に寄せる。吹いてくる冷たい風がミヤの髪を揺らして視界を妨げた。
そこにはコンクリートで出来た僅かな幅しかない窓の庇の上にこちらを見上げて立っている彼の姿があった。
「ちょ、吃驚したぁ」
手摺りを掴んだままミヤはその場に座り込んだ。所謂、腰が抜けたと言うやつだ。
目の前で砕け散った人間の四肢を拝見するのは誰だって辞退したい。
手摺りの間からこちらを向いた彼と視線が交わる。
とても綺麗な色をした目だった。
「みやび、蓼科雅。あなたは?」
「僕はアキ。よろしくね雅ちゃん」
アキとの出会いはそんな秋の夜に始まった。
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