昔色

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あの日は確か、雲一つない快晴だった。 僕は桜の木の下で女の子に出会った。 ヒラヒラと舞い落ちる桜の花びらがとても幻想的に見えた。 「どうしてこんなところにいるの?」 女の子は不思議そうにそう問いかけてきた。 吸い込まれそうに綺麗な瞳。 艶のある髪が風で舞う。 桜色のパジャマが印象的。 「この桜をね、もっと近くで見てみたかったんだ」 「ふーん」 女の子は納得いかないような顔でさらに続けた。 「あなたはこの病院に入院してるの?」 「ううん、でもお母さんが入院してる」 「そうなんだ……」 「だからね、この桜にお母さんが元気になるようお願いしようと思ってた」 「桜に?」 女の子は不思議そうな顔だった。 「うん。この桜はね、願いを叶えてくれるんだ」 「ホントに?」 「うん。おばあちゃんが教えてくれたんだ。僕が生まれる時もこの桜にお願いしたんだって」 「わたしも……お願いしようかな……」 女の子は寂しそうにそう言った。 「君のお母さんも入院してるの?」 「ううん、わたし。ずっと入院してるの…」 「そうなんだ……」 「うん。だからわたしお願いするね」 そう言うと女の子は桜の木の前で膝をついた。 「僕もお願いする」 僕も膝をつく。 空はどこまでも蒼くて、 雲は汚れなく白くて 木々は力強く緑で そして桜は…………
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