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午後二時
空に浮かぶ入道雲がまるで夏の訪れを告げているようだった。
気温も夏並みに高く、ひょっとしたら自分は4ヶ月くらい昏睡状態で、今やっと目覚めたのではないかと錯覚するほどだった。
咲との約束の時間まではあと一時間も無かった。
何かをするには時間が足りず、何もしないには長すぎる。
分かりやすく言うならば暇を持て余していると言ったところだった。
「のど乾いたな………」
夏並の気温は容赦なく俺の体から水分を奪う。
マラソンをした直後で喉がカラカラで気持ちが悪い。
例えるならそんな感じだった。
目がほとんど見えないこともあって、普段ジュースくらいなら誰かが買ってきてくれるのだが…
「誰もいない…」
そう呟いてみたものの、いないものはいないので返事もない。
俺一人しかいない部屋は俺が黙るとすぐに元の静寂を取り戻した。
両親は共働きということもあって一日に一回来るか来ないかだし、これだけの事でナースコールを押すのも迷惑だ。
「仕方ないか………」
重い腰を上げて買いに行くことにする。
起き上がった時、ギィィとベッドが音を立てたが、それすらも虚空に消えていった。
幸い病院というものは殆ど白で構成されている為見える。
「俺、太ったか?」
素っ頓狂な声が響く。
病室の静寂がまるで俺の問いに対して肯定しているようだ。
その何だか足が重い。
足に鉄アレイでも乗せているようだった。
ほとんどベッドで過ごしているからだろうか………
病気にかかってから自分がどんどん不自由になっていく気がする。
気がする、と言うのは適切でない。実際に不自由なのだから。
そして今それを実感してしまう。
かつては肌色だった自分の足に目をやる。
部活で汗を流していた頃よりは細くなった気がする。
その足が俺の思い過ごしではないと言っているようだった。
「………行くか」
わざとそう口に出したのは、自分を奮い立たせるため、とでも言うのだろうか。
不気味なくらいの静寂。
そんな空気に耐えられなくなった俺は病室を後にした。
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