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6月の丁度雨期に入った季節の中を、俺は走っていた。
目的の場所などどこにもなく、ただ疲労で痛む足を止める事を拒み続けた。
何から逃げているのかも分からない。
何故逃げているのかさえ分からない。
-誰か助けて。
その文字だけが頭の中をかけずり回る。
もう限界に近い足に鞭を打つ。
その間にも後ろから聞こえる足音が段々と近付いて来るのが耳に入った。
-嫌だ、捕まりたくない。
そんな願いも虚しく、俺の肩が捕まれた。
そのまま仰向けに倒され、手を背中に回される。
「違う、俺じゃない!俺はやってない!」
俺が必死に叫ぶも男は無視し、無線のスイッチを入れて話し始めた。
「たった今犯人を確保しました、応援を寄越して下さい。」
男が無線で話している相手が了解、と返した瞬間に俺は全ての力が抜けた。もう俺には何も残らない、そう悟った。
車が着き、俺は無理矢理立たされた。
煙草臭い車内に押し込まれる直前に俺を捕まえた男が笑う声がした。
「残念だったねぇ、『犯人』君」
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