第4話「詠唱者と盗賊」

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第4話「詠唱者と盗賊」

「とにかく、『シルクの涙』はいただきます」 「ああ、あれなら……」 指差した方向にはもうガラスケースも憑依霊もいない。 「憑依れ……いや、コラセス氏が持ってたぞ」 しかも目の前を横切ったのだが……。 「あら、時間稼ぎでしたか」 そんなつもりは無かったが……結果としてそうなったらしい。 「まあ、大人しく降伏しとけよ」 「いえいえ、ここで負けを宣言したら盗賊の名が廃ってしまいます」 既に獲物を逃がしている時点で負けだと思うが……。 「なら、さっさと追えばいいだろう?」 「そのまえに貴様だけはスライスしてくれる!!」 「やれやれ、第二ラウンドか……」 「私は形無き者。あなたには捕らえられない」 「ぬかせ、我が光の鎖錠は闇さえも束縛する」 「気をつけてください、あの人『詠唱者』です」 裏切りフラグ全開だったくせに、助けてもらったから出来る副官面をしてやがる。 ちなみに『詠唱者』とは複数の能力を使える人間のことだ。 「悪いが速攻で終わらせる」 こちらが先制をとる。 「形無き闇も光の鎖からは逃れられん 『封縛・光の鎖錠』」 光の鎖が二人を束縛しようと迫る。 「愚者よ、切り裂かれ物言えぬ塵となれ 『斬撃・五月雨の血』」 見飽きた光景が目の前で起こり、両者の能力が霧散する。 「鎖よ、宿命の名によりて……散らせ 『縛殺・運命の裁き』」 霧散した瞬間に次のスペルを詠唱する。 「ひっ」 一度痛めつけられた男がおびえを見せるが…… 「如何なる者も姿無くば捕らえられん 『虚無・白の霧雨』」 少女が詠唱すると鎖はまるで二人の存在が無いかのように通り抜けた。 「残念♪ 束縛失敗ですね」 「愚者よ、切り裂かれ物言えぬ塵となれ 『斬撃・五月雨の血』」 その状態から黒い刃がこちらに向かって襲い掛かる。それを大きく横っ飛びで裂ける。後ろの壁がずたずたになるどころか紙のようにぺらぺらにされている。こちらは攻撃不可能。相手は攻撃可能。結構分が悪い……。 『封縛・光の鎖錠』では相手を捕らえられてもあいつの技に相殺される。『縛殺・運命の裁き』では威力が強くともあの少女の能力で当たらない。 ――仕方ない。 「その光は正義……その鎖は戒め……」
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