89人が本棚に入れています
本棚に追加
ラインゴッド大森林。
樹齢2000年以上にも及ぶ大木が迷路のように乱立し、濃霧が漂うこの森は、慣れない人間が足を踏み入れたら生きては帰れないとさえ言われる深い森である。故に周囲に住む人々は【迷い路の森】という別名をつけている。
そんなラインゴッド大森林の最奥、この森で一番大きな樹の根元に1軒の家が建っていた。
黒い屋根を持つ立派なバロック様式の家だ。
レンガは所々欠けているものの、かえってそれが家の外観になんとも言えない威厳を与えている。
黒い屋根から突き出した灰色の煙突もその家と妙に相まっており、まさに魔法使いの家といった感じだ。
そんな見慣れた我が家を見て、ユーリは思わず息をついた。
「やれやれ…相変わらずあそこの街は私を子供扱いする輩が多くて嫌になるな」
ボヤきながら街で買い物をした際に色々と押し付けられた荷物を魔法で宙に浮かせ、ローブの内ポケットから鍵を取り出して扉を開ける。
本来ならこんな鬱蒼とした森の奥まで来る人はまずいないので鍵など必要はないのだが、気分的にかけていた方が落ち着くのだ。
鍵を穴に差し込んで回すとカチリ…という音がして扉が開く。
そのままは荷物と共に家に入り、居間にあるテーブルの上におろす。さらに袋の1つをあさり、中から買ってきたコーヒー豆を取り出す。
チラリと部屋の隅にある時計を見ると時刻は既に午後3時を回っている。いつもならこの時間はコーヒーを飲みながら書庫で本を読みふけっている時間だ。
「やれやれ、とんだ手間をとらされたものだ」
まあ、予定は若干狂ったが変わりにこれだけの生活用品を手に入れたのだ。文句は言うまい。コーヒーもこれから淹れればいいのだ。
そう考えてユーリがコーヒーサーバーに手を伸ばした瞬間、不意に家の扉が叩かれた。
最初のコメントを投稿しよう!