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「ん?」
思わず首を捻る。
来客?いや、まさか…こんな森林の最奥に人が尋ねてくるとは考えにくい。
仕事の依頼にしても街にいる郵便フクロウに手紙を渡せばわざわざこんな所に出向かずともその旨は伝わる。
と、なると森を吹き抜ける風がただ単に扉を揺らしたのかもしれない。
まあ気にする事はあるまい。
そう結論づけるとユーリは一度置いたコーヒーサーバーに再び手をかけ、お湯を沸かす為に暖炉の薪に火をつけた。
と、そこで再び扉がコンコンと叩かれた。
「……?」
どうやら空耳ではないらしい。
まさか本当にこんな迷いの森の最深部にくる馬鹿がいるのだろうか?
そろりそろりと扉の前に行き様子を伺う。
すると今度は扉の向こうから可愛らしい声が聞こえてきた。
「すいませーん、どなたかいらっしゃいますか~?」
「!?」
思わず驚愕するユーリ。
なんせ声の質からして扉の向こうにいるのは女。しかもまだ年ばもゆかない少女のようだ。
「まさか…本当に此処まで来たというのか…」
だとしたら相当な根性の持ち主、あるいは馬鹿だ。
…何にせよ関わりあいになるのはよそう。
ここまで来た事は賞賛に値するが如何せん今はコーヒーを飲む事が先決だ。どうせ会いに来た理由も下らない依頼に違いなし、そんなものにいちいち構ってられない。
とりあえず居留守を使おう。いないとわかれば諦めて帰るだろう。ここまで来れたんだし来た道を辿れば暗くなる前には森から出られるだろう。
うむ、と頷いて居間に戻る事にする。
「う~ん、おかしいなぁ…煙突から煙が出てるんだからいないって事はないよね、多分」
やらかしたとユーリは頭を抱えた。
そういえば先程薪に火をつけてしまった。これでは中にいますといっているようなものだ。
「ごめんくださーい、ユーリさーん」
再び少女が扉を叩く。
どうやらなかなか頑固な性格、もとい諦めが悪い性格のようだ。
「残念ながらユーリさんは留守だ」
フンと鼻で笑い飛ばしてから、扉に背を向ける。と、その時扉の向こうにいる少女がとんでもない事を言い始めた。
「う~ん、しょうがない。本当に出掛けてるみたいだし家の前で待ってようかな…」
…ナンダッテ?
「うん、きめた。そうしよう」
扉の向こうで一際明るい声がした。
本気で待つのかよ!?
なんだかとても嫌な予感がユーリの背筋に走った。
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