もの言う日記

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◆ 「お疲れさま。ありがとね、ちゃんと解決してくれて」 電話口から届けられる、愛しき恋人による労いと感謝の言葉は、色々な事情で疲弊していた耕平のハートを、たっぷりと満たしてくれた。 結局、今日もテスト勉強に手がつかないまま床に就いてしまったが、今はそんな気分でもないので、丁度いいくらいだと楽観視している耕平。 それはさておき、まどかがやたらと事件の詳細を聞きたがるので、耕平は、特に得意ぶるでもなく、淡々とそれを教えてやる。 一部始終を話し終えると、まどかが訊ねてきた。 「ね、耕平くんは、なんで井上くんが浮気してないって分かってたの?」 「ん?」 「だって、結論を最初に言った時、『浮気はしてない』って断言したんでしょ? でも、その時点では、井上くんが土曜日に何をしてたかは分かってなかったはずじゃない」 「ああ……簡単だよ。彼女に束縛されてる割には、井上クンの日記には奈緒子ちゃんの悪口が一言も書かれてなかったからな。それどころか、カラオケでの歌の上手さをべた褒めしてたし。本音を書くための日記であんな調子なんだ、彼女を心から愛してる証拠だろ。浮気なんか、するはずないって」 「ふーん……」 「まあ、俺だったら束縛くらい軽く許せるけどな。だって、束縛されるってことは、愛されてるってことだろ?」 すると、まどかはいたずらっぽく返事をしてきた。 「じゃあ、束縛しないあたしは、彼氏のことを愛してないのかもね」 当然、耕平は「ああん、いけず」となる。 二人の間に、電話を通じて、和やかな空気が流れた。 『束縛』も、言ってしまえば、愛の形の一つである。それが相手にとって良いものであるかは別として、だが。 愛しているからこその、束縛。 しかし、耕平とまどかのように、そんなものを必要としない、信頼関係に依って立つ愛もあることは、念頭に置いておきたい。 「──まあ、今回は、あの日記に助けられたよ。やっぱ、名探偵なんて俺の柄じゃないんだよな。 俺には、そう、今回みたいな小さい事件がお似合いなんだ。 『平凡な日常に潜む、平凡なミステリー。君塚耕平が臨む事件は、今日も小さかった』……って感じだよ、うん。 これなら、俺の小さな推理力も栄えるってもんだぜ。 そういう訳で佐伯クン、次に依頼を紹介してくる時があったなら、なるべくそのあたりを考慮してからにしてくれるとありがたいね」
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