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ガターンっ!
悲鳴を上げながら椅子を弾き飛ばし、少年は勢いよく立ち上がる。
それからはぁはぁと肩で息をしながら辺りを見回し、どうやら夢を見ていたようだと気が付くと、心から安堵したように、力なく椅子に崩れ落ちた。
「夢でよかった……」
そうひとりごつと、大いなるため息をつくのだ。
少年がしばらく脱力していると、やがて、いち早く教室に戻ってくる人影があった。
誰あろう、二年生にしてサッカー部不動のエースの、八ツ橋秀樹である。
秀樹は、真っ白になっている少年を見るや、口を開いた。
「あれ、耕平? お前、購買行かなくていいのかよ?」
少年──君塚耕平は、訊ねられると、ビクンと体を上下させ、時計に目を向けた。
が、時すでに遅し。いまさら持ち前の俊足を披露したところで、コッペパンすら残っていまい。
耕平は、両手で頭を抱え、くねくねと体をうねらせながら、「ああああ……」と絶望の吐息を漏らした。
秀樹は、そんな様子を面白がるように耕平に近づき、彼の一つ前の席に座ると、見せびらかすように本日の収穫物を差し出してくる。
「見ろ耕平、今日は豪華だぞ。クリームパンに焼きそばパン、それにカレーパンもある。いやー、三階から走ってなおこの出来とは、我ながら素晴らしいと思うね」
耕平は、そんな秀樹の手元を恨めしげに見つめていた。
すると秀樹は、こう言葉を紡ぐのだ。
「まあ、耕平。俺とお前の仲だ。この三色パンの中身を全部当てることができたら、一つ二つのパンくらい、お前に譲ってやらないこともないぜ」
途端に、耕平が目を見開いた。興奮のあまり、鼻の穴まで広げる始末だ。
昼食を抜いて、午後の部活に耐えられるはずがない。そう考えれば、なんとしてもこの挑戦に勝たなければならないのは火を見るよりも明らかなのだ。
耕平は、あえて平静を装い、おもむろに足を組んだ。
「よろしい。ならば我が友人、シャーロック・ホームズのやり方を真似て、この謎を解き明かしてみせよう」
「ほーう?」
「まずはこの部分だ。ちぎってみよう。ふむ。軽いな。中身はおそらくクリームだね」
「それはまたなぜ?」
「軽いからさ」
「実に興味深いね」
「次はこの部分だ。おや? これはなんだろう。……」
などと茶番に没頭していると、教室の前方の入り口に、またも人影が現れた。今度は二つだ。
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