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取り出した物は、長柄のワンド。先端に黒い輝きを帯びた石が埋め込まれている、魔術師の基本ツール。
「悪く思わないでね、話も聞かずに逃げ出すあなたが悪いんだからね」
少女は再度ポケットを漁り、出てきた短冊型の紙を握り、その場に立ち止まった。
ワンドを天に掲げ――意識を一点に集中させる。
刹那、黒い光が少女の身体から発生される。発生した漆黒はワンドを持つ右手へと集中していき――そして。
『契約者・アルテミス=ラーラが命ずる……
宇宙の理を司る、大きな流れを持つ者よ! ――』
――それは口上。
だが、そうこうしている間も、青年の姿はみるみる内に遠ざかっていく。
手の平サイズの黒い球体がワンドを通じて空気中から生成されていく。
そうして空中に生み出された物は手の平サイズの漆黒の球体。
少女はワンドを振りかぶり――満面嬉々な笑顔を浮かべ、
「さて、うまく避けてよね、……と」
――笑った。
ようやく諦めたか。
地味に速度を上げながらも背後へ伸ばすアンテナは事欠かない。
ちらりと盗み見た物は、少女が立ち止まる姿だった。
一体自分を追う者が『どこから湧いて出た』のかは知らないが、どうもこの界隈に住む者ではなさそうだった。
――目付きが違う。
――身なりが違う。
青年でなくとも気付くだろう、この場に不釣り合い過ぎる美しさを纏うあの者の異質さに。
「――?」
ふと、背筋に悪寒が走った。それはもう、彼の中の第六感――潜在意識によるものに違いなかった。
――立ち止まらなければ、今すぐに!
青年は足を止めた。
刹那――!
一瞬、地面を踏んでいる感覚がなくなり、身体が宙を浮いているような感覚が青年の身体に襲いかかった。
「うわっ……な、なんだ」
黒い球体が目の前に立ち塞がったかと思えば、青年の足元僅か数mm先に、半径1m程の穴がぽっかりと顔を出していた。
音もなく、ただそこだけ空間を綺麗に切り取ったように――
それ以上前に進もうとは思わなかった。
何がこの現象を生み出したのか、答えはただ一つ。
背後からゆっくりと現れる来訪者の訪れを青年は振り向きもせずに待った。
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