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「見つけたぞ」
男の声がした。
青年は立ち止まり、声の方向を目で追う。
ふと、廃屋同然である家屋の屋根の上に、逆光を背にした銀色があった。
男の銀髪が、天から降り注ぐ陽光を受けて輝いている。
漆黒の外套が体格こそ隠しているものの、切れ長の聡明なる双眸、漂う気品、風体からして、このエリアに存在するには不釣り合い窮まりない。
「アラン様!」
先程の女が声を上げたことで確信する。
この男は敵である、と。
理解するが早いか、青年は新手の出現を無視し、その場からの逃走を再開しようと試みる。
「あっ!」
青年が立ち止まったのをいいことに、気を抜いていた少女が素っ頓狂な声を上げる。
「……、私がいこう」
天から降ってきた声がラーラの耳に届くか届かないかの間に、塞がっていた光の遮りは消えていた。
青年は全速力で逃げ出したつもりだった。
突然、2、3m先に砂埃が舞い上がった。
「うわっ」
奪われる視界に目を覆い隠しながら走り去ろうとした青年はふと、なにかに足を引っ掛けて転倒した。
「……っつ…」
仰向けになった青年の視界が徐々に明瞭になっていく。
と同時に、『何が』自分に起きたかを理解する。
今の今まで廃屋の屋根にいたはずの銀髪黒マントが、目の前で訝しげに自分を見下ろしていた。
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