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「ア、アラン様! ありがとうございますっ…」
青年の思わぬタイムロスをいいことに、間を詰めたラーラが遂に追いついた。
幾分距離が離れていたからからだろう、息がだいぶ上がっている。
「それで? 用件は済ませたのか」
「はい、もちろん。ちゃんと伝えました……伝えた瞬間に、ご覧の通り逃げられてしまいました」
「!!」
あれは冗談ではなかったのか!?
先程ラーラから聞いた戯れ事を思い出し、青年は思わず新手の男の反応を窺った。
目線の先がかちりと符号合わせをした。
それも数瞬だろうか、すぐに逸らされた視線は再度部下であるラーラへと流される。
「本当にこのような何の取り柄もなさそうなみすぼらしい男なのか?」
「ええ、間違いないです」
そんな問答を耳にしながら青年は立ち上がった。
身体に降り懸かった砂埃を払いのけた青年の本日何度目かの逃亡気配に気づいたアランが、青年の服の裾をグイッと引っ張った。
「うわっ」
言うまでもなく何の予備知識もなかった青年は、突如加えられた逆向きの力になすすべもなく倒され、
「死にたくなかったら変な気は起こさないようにするんだな……貴様に選択権はない」
アランのこの言葉にカチンときた青年が拳を握る。
「ふぅ、やれやれ。一度拾った命を自ら棄てようというか……」
アランはラーラをかばうようにして前に出、待っていたと言わんばかりに構えて立ち、
「5分で私の前にひざまづかせてやろう!」
漆黒の外套を風に払った。
(第1話) おわり
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