絶望と生きる理由

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 精神を蝕むのは、焔の紅(あか)。  あのひとの、悲鳴にも似た叫びが聞こえる。  こんな時だというのに、その鈴の音のような声を美しいと思う。  声が嗄れるほどその名を叫んでも、愛しいひとには届かない。  紅蓮の焔は太古の蛇神のように、すべてを蹂躙し犯しつくす。  恨んだひとも、呪ったひとも、大切なひとも、愛しいひとも。  流れ落ちる涙が頬を濡らし、絶望が暗闇の淵から這い上がる。  夢なら早く醒めて。  なんど願っても、それは現実。  「生きて下さい。わたくしの分まで」  最期の言葉を違える事ができたらなら、今ひとたび、あのひとに逢えただろうに。  這いつくばってでも生きていくのが、課せられた罰。  今日も、明日も、疼く痛みを抱えたまま、無為に生きていくのだ。
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