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暗く湿った空気を漂わせる牢の中に、一組の男女が向き合うように座っている。
女は白装束に身を包み、やつれた顔にうっすら隈を作りながらも、どこか落ち着き払った様子で、ただ石畳の床を見つめている。
「あんた…一体、何をしたんだい」
そんな中、言葉を発したのは、奇妙な格好をした男。
浅葱色の派手な着物を着付け、赤い隈取りと紫の紅が印象的な、何ともおかしな、だがそれでいて美しい男であった。
女は視線を床から男に移し、そして怪訝そうに眉をひそめた。
「…どなたですか」
男の問いに答えぬ女に、しかし男は平然と笑みを浮かべる。
「見ての通り、貴女の御同輩ですよ」
つまりは、この男も罪人というわけだ。
同じ牢に囚われているのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
黙ったままの女を尻目に、男はさらに続ける。
「薬売りをしているんですがね、客の一人にけしからん奴がおりまして。
売った丸薬が全く効かない、詐欺だなんだと難癖をつけてきましてね…。
大体、薬に頼って治そうっていう心根が気に食わない。効かぬは貴様の信心が足りぬからだ、目刺しの頭の喩えもあるじゃないかと言い返したら、金を返せと騒ぎ出したんで番屋に駆け込んだところ、逆に私がこの有様で、全くのところ…。
…ああ、鰯の頭だったかな…」
「おかしいですね」
ぺらぺらと一方的に喋った挙げ句、一人思案に暮れている薬売りの男を顔色ひとつ変えず無表情に見つめていた女は、静かに口を開く。
「人を呼びます。だってそうでしょう?男と女を同じ牢に…」
そう言った女を、薬売りは静かに制した。
「まあまあ…どうせ貴女…」
薬売りの目が、鋭く細められる。
「…死罪、なんでしょう?」
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