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「…ご存じなんですね」
「ええ…いや、まあね。巷ではアンタの噂で持ち切りですからね。――お侍一家、旦那姑殺しの鬼嫁、お蝶ってね」
男の言葉に、女――お蝶は、ほとんど表情に変化も見せず、小さく溜め息をついた。
「そうですか、世間ではそのような言われ様ですか」
まるで他人事のような、お蝶の様子。
「…しかし、随分と、派手にやったもんですね」
薬売りは一度目を伏せてから、まるで試すようにお蝶を見た。
「四人を梅の木に吊るすとは――」
明かされる、殺害の手順。
しかし、お蝶はただ首を傾げるだけであった。
「…違いますけど」
「あれ、おかしいな…」
お蝶が否定すると、薬売りはわざとらしいともとれるような大仰な様子で、じゃあ、と言葉を続けた。
「死体を庭に埋めて顔だけ晒したり、縛り上げ、案山子のように吊り上げたり…凄まじいものだ」
「違います」
これもまた、否定される。
薬売りはお蝶から視線を外すことなく、口角を上げた。
「違いますか?…どんなもの、でしたっけ?」
聞かれて、お蝶は上を見上げる。
脳内で目まぐるしく移り変わる、様々な光景。
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