前編

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  「…ご存じなんですね」 「ええ…いや、まあね。巷ではアンタの噂で持ち切りですからね。――お侍一家、旦那姑殺しの鬼嫁、お蝶ってね」 男の言葉に、女――お蝶は、ほとんど表情に変化も見せず、小さく溜め息をついた。 「そうですか、世間ではそのような言われ様ですか」 まるで他人事のような、お蝶の様子。 「…しかし、随分と、派手にやったもんですね」 薬売りは一度目を伏せてから、まるで試すようにお蝶を見た。 「四人を梅の木に吊るすとは――」 明かされる、殺害の手順。 しかし、お蝶はただ首を傾げるだけであった。 「…違いますけど」 「あれ、おかしいな…」 お蝶が否定すると、薬売りはわざとらしいともとれるような大仰な様子で、じゃあ、と言葉を続けた。 「死体を庭に埋めて顔だけ晒したり、縛り上げ、案山子のように吊り上げたり…凄まじいものだ」 「違います」 これもまた、否定される。 薬売りはお蝶から視線を外すことなく、口角を上げた。 「違いますか?…どんなもの、でしたっけ?」 聞かれて、お蝶は上を見上げる。 脳内で目まぐるしく移り変わる、様々な光景。  
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