前編

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  「顔?」 「明日、死罪を迎えている者が纏っている空気ではない、という」 そういう意味ですよ、と笑ってみせた薬売りに、お蝶は自分の着物を見下ろして、自嘲気味に言う。 「着物はすっかり白装束ですけど」 すると薬売りはくすっ、と笑い、静かに立ち上がる。 「まあ、それはここのお仕着せですから。なりは兎も角、顔ですよ、私の言いたいのは」 薬売りはお蝶を見、目を凝らすようにする。 「まるで別人だ。普段のお蝶さんと」 それを聞くと、お蝶は馬鹿にしたように笑う。 「何をおっしゃるのです。普段の私を知りもしないで」 お蝶がそう言うのも当たり前だろう。何せ二人は、今日この牢獄で初めて出会ったのだから。 お蝶は、眉をしかめて薬売りを見る。 「あなた…何者です」 その時、だった。 不意に、ぞろりとした気配が、牢の中に走る。 何処からか紫煙が立ち込めて、空気が重くなったようにも感じられた。 『お前、何者だ』 牢に響いた男の声に、薬売りは素早く身構えた。 辺りに視線を走らせるが、見えるのは紫の煙ばかりで、その姿は見えない。  
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