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『答えろ。何者だ』
黙った薬売りに、謎の声がもう一度問い掛ける。
「ただの、薬売りですよ。…おっと、今は罪人か」
薬売りはピンと張り詰めた空気を緩めることなく、姿の見えない相手からの問いに答える。
『何故ここにいる。答えろ、どうやってここに入った』
怒りを含んだその声に、薬売りは興味深そうに顎に手をやった。
「よく喋る…初めてですよ、こんなモノノ怪にお会いしたのは」
すると、その言葉に今まで黙っていたお蝶が反応した。
「変なことを言わないで下さい、あの方は怪しい方ではありません」
初めて感情的な様子を見せたお蝶の声に呼応するように、牢に取り付けられた錠前が一人でに外れた。
お蝶は立ち上がって解錠された扉に近付こうとし、しかし薬売りがそれを遮った。
「出てはいけない」
静かに、だが緊張感のある薬売りの声に、お蝶は一瞬立ち止まるが、すぐに薬売りを睨み付けた。
「退いて下さい」
「出てはいけない」
強引に薬売りを押し退けようとした彼女の腕を、薬売りが掴む。
「何をなさいます…離してっ、離して下さい!離して…!」
お蝶は必死にその手を振り払おうとするが、薬売りは離そうとしない。
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